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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)704号 判決

原告

一色伸朗

被告

東神交通株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金二〇九万六九七四円及び内金一九〇万六九七四円については平成五年一〇月二七日から、内金一九万円については本件判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して、金三〇万三六一七円及び内金三八九万三六一七円については平成五年一〇月二七日から、内金四一万円については本件判決言渡しの日の翌日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成五年一〇月二七日午前〇時二〇分ころ

(二) 場所 神戸市東灘区西岡本三丁目一番七号前道路

(三) 加害車 被告田中幸紀(以下「被告田中」という。)運転、被告東神交通株式会社(以下「被告会社」という。)所有の普通乗用自動車(登録番号;神戸五五え八八八七)

(四) 被害車 原告運転の普通乗用自動車(登録番号;神戸三三は九八二二)

(五) 態様 被害車が本件道路上を東進中、前方で客を乗車させるために停車していた加害車が、突然発車するとともに右方に転回し、加害車右横部を被害車前部に衝突させた。

2  原告の受傷内容及び治療経過

原告は、本件交通事故により、頭部外傷、頸部捻挫、両肩打撲、腰部打撲の傷害を受け、その治療のため、本件事故当日の平成五年一〇月二七日から平成六年一二月二九日までの間、宮地病院において治療を受けた(入院日数九日及び実通院日数二〇二日)。

3  責任原因

被告会社は、本件事故当時、加害車を保有し、被告田中の使用者であつた。本件交通事故は、被告田中が、被告会社の従業員として勤務中に、後方注視義務を怠り、突然発車・転回したことにより発生したものである。

したがつて、被告田中は、民法七〇九条により、被告会社は、民法七一五条及び自賠法三条により、原告が受けた後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 車輛代金 金一三五万円

被害車は本件事故により廃車処分したが、同事故当時の評価額は金一八〇万円であつたところ、平成六年五月ころ、車輛代金のみについて金一三五万円の賠償を受ける旨の示談が成立したので、結局車輛代金の損害額は金一三五万円である。

(二) レツカー代金 金四万〇六八五円

被害車は、本件事故により自力走行不能となりレツカーによりけん引して運搬された。

原告は、本件事故現場から東灘警察署までのレツカー代金として金二万〇〇六〇円、同警察署から修理工場までのレツカー代金として金二万〇〇八五円、合計金四万〇六八五円を支出した。

(三) 治療費 金二三万一五二四円

原告は、前記受傷の治療費として合計金二三万一五二四円を支出した。

(四) 付添看護料 金五万八五〇〇円

原告は、安静加療を要したので、入院した九日間、母である一色昭子の付添看護を受けた。

近親者の付添看護料は一日あたり金六五〇〇円が相当であるから、付添看護料は合計金五万八五〇〇円となる。

(五) 通院交通費 金九万八〇〇八円

原告は、前記のとおり二〇二日間通院し、右通院には普通乗用自動車を利用し、そのガソリン代合計が金九万八〇〇八円であつた。

(六) 入院雑費 金一万三五〇〇円

原告は、前記のように九日間入院治療を受け、その間雑費として一日当たり金一五〇〇円の割合による合計金一万三五〇〇円を要した。

(七) 慰謝料 金二三五万円

原告が本件事故による受傷のため被つた精神上の苦痛に対する慰謝料は金二三五万円が相当である。

(八) 休業損害 金二三〇万一四〇〇円

原告は、神戸市灘区において個人で飲食店を経営し、本件事故当時、一日当たり金三万円程度を売上げていたが、右経営によつて得た前年の収益については資料が存しないので、賃金センサスの平均賃金によつて休業損害を算定せざるをえない。

賃金センサス平成五年度第一巻第一表・企業規模計・男子労働者・学歴計・二五歳ないし二九歳の表によると、平均年収額は金四二〇万〇三〇〇円となるので、一日あたりの賃金は金一万一五〇七円となる。

これに休業日数である二〇〇日(平成五年一〇月二八日から平成六年五月一五日まで)を乗じると金二三〇万一四〇〇円となり、これが休業損害額となる。

(九) 以上合計 金六四四万三六一七円

5  損害の填補

原告は、被告会社より右損害額のうち被害車の損害として金一三五万円についてのみ支払を受けた。

また、原告は、自賠責保険より金一二〇万円の支払を受けた。

したがつて、原告の請求金残額は金三八九万三六一七円である。

6  弁護士費用 金四一万円

原告は、本訴の遂行を原告訴訟代理人らに委任し、その費用及び報酬として、金四一万円の支払を約束した。

7  よつて、原告は、被告両名に対し、連帯して、損害金四三〇万円三六一七円及び内金三八九万三六一七円については本件事故の日である平成五年一〇月二七日から、金四一万円については本件判決言渡の翌日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は不知。

3  同3は認める。

4  同4のうち、(一)は認め、その余は争う。

5  同5は認める。

6  同6は争う。

三  抗弁

1  物件損害に関する示談

本件事故による物件損害については、原告と被告会社間で既に示談が成立し、被告会社は原告にその示談金一三五万円を支払済みであるから、原告は物件損害については請求権を有しない。

2  過失相殺

本件事故現場は、東西方向に通じる片側二車線の直線道路の東行車線上であり、見通しは良く、その制限速度は時速五〇キロメートルである。

原告は、本件事故当時、制限速度を超過して時速七〇キロメートルの速度で被害車を運転し、減速等の衝突回避措置をとらず、前方注視も怠つたことも原因として加害車に衝突したものであり、これらの過失が本件事故の発生に寄与したことは明らかである。

原告の右過失は、被告田中の過失と対比して、少なくとも二五パーセントは存するものと考えるべきであつて、原告の損害額につき右割合を前提として過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1中、被告主張の示談金が原告に支払済みであることは認めるが、その余の主張は争う。

右示談は、車輛損害に限つてなされたものである。

2  抗弁2は否認する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし八号証、九号証の一ないし三、一〇号証の一ないし一八五、一一号証、一二号証の一、二、一三号証、一四号証の一ないし一七、一五ないし二二号証

2  原告本人

3  乙第六号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一ないし一六号証

2  甲第一号証、九号証の三、一〇号証の一ないし一八五、一一号証、一二号証の一、二の各成立は認める。甲第二ないし七号証の各原本の存在並びに成立は認める。甲第八号証、九号証の一及びその二の成立は不知。甲第一三号証、一四号証の一ないし一七、一五号証の各成立は不知。甲第一六号証ないし二二号証の各原本の存在並びに成立は不知。

理由

一  請求原因1(事故の発生)

当事者間に争いがない。

二  請求原因2(原告の受傷内容及び治療経過)

成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし一八五、一一号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨並びにこれらによつて真正と認められる乙第五号証を総合すると、請求原因2の事実を認めることができる。

三  請求原因3(責任原因)

当事者間に争いがない。

四  請求原因4(損害)

1  車輛代金及びレツカー代金 〇円

(一)  成立に争いのない甲第九号証の三、乙第一号証、原告本人尋問の結果並びにこれによつて真正に成立したものと認められる甲第八号証、甲第九号証の一、二、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被害車は、本件交通事故により自力走行不能となりレツカーによりけん引して運搬されたが、本件事故現場から東灘警察署までのレツカー代金は二万〇六〇〇円であり、同警察署から修理工場までのレツカー代金は二万〇〇八五円であつた。また、被害車は大破し、その損害は金一八〇万円程度であつた。

(2) 原告は、平成六年五月、被告会社との間で、本件事故による物件損害につき、原告の損害額を金一八〇万円、被告会社の損害を金六二万一〇一七円、過失割合を原告二五パーセント、被告会社を七五パーセントとそれぞれみて、原告が被告会社に対し金一五万五二五四円、被告会社が原告に対し金一三五万円をそれぞれ負担する旨約し、右条項以外に相互になんら債権債務のないことを確認する旨の示談契約を締結した。

(二)  右認定によれば、本件事故に関する物件損害については示談が成立しており、被告会社から原告に対し、示談金一三五万円が既に支払われていることは当事者間に争いがないから、物件損害に関する示談が成立しているとの被告らの主張(抗弁)は理由がある。

そして、原告主張の車輛損害だけでなく、レツカー代金も物件損害というべきであるから、原告の右各損害に関する請求は認めることができない。

なお、右示談は、原告と被告会社との間に成立したものであるが、本件事故及び示談の内容、経過、被告らの関係等から、原告は被告田中に対しても本件事故に関する物件損害を請求できないと解するのが相当である。

2  治療費 金二三万一五二四円

前記甲第一〇号証の一ないし一八五、一一号証、乙第二号証、五号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、前記のとおり受傷し、平成六年九月二七日症状固定したということで後遺障害診断書を作成してもらつたこと、しかし、その後もその症状が思わしくなかつたため、原告は、同年一二月二九日まで宮地病院で通院治療を受けたこと、原告の室料差額費用、診断書料を含めその治療費合計が金二三万一五二四円であることが認められる。

右認定によれば、右治療費合計額二三万一五二四円は、その中に後遺症状固定後の治療費が含まれているが、原告の受傷内容、程度、、後遺症状固定後の治療期間、治療費等から、本件事故による受傷と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。

3  付添看護料 〇円

付添看護料は、医師の指示があつた場合の他、受傷の部位、程度等からその必要性があつた場合にのみ認めるのが相当である。

前記乙第五号証によれば、担当の医師は、原告の入院期間、付添看護の必要性を認めていなかつたことが認められる。そして、本件全証拠によつても、原告に付添看護が必要であつたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

よつて、付添看護料を相当な損害として認めることはできない。

4  通院交通費 金九万八〇〇八円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一四号証の一ないし一七によれば、原告は、平成五年一一月二〇日から平成六年七月二一日までの間、父親の自動車を利用して宮地病院に二〇二回通院したこと、そのガソリン代合計が金九万八〇〇八円程度であつたことが認められる。

右認定によれば、一回あたりの通院交通費は金四八五円程度であり、右通院交通費は相当な損害というべきである。

5  入院雑費 金一万一七〇〇円

原告の本件事故による九日間の入院雑費としては一日あたり金一三〇〇円が相当である。

したがつて、相当な入院雑費は金一万一七〇〇円となる。

6  休業損害 金二三〇万一四〇〇円

(一)  弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第一六号証ないし二二号証、原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる乙第六号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時、二八歳であり、平成二年以来、神戸市灘区において飲食店を経営し、本件事故当時には固定客もつき、一日あたり金三万円程度の売り上げを計上していたこと、原告は、本件事故により、治療に専念して同店を休業し、平成六年五月中旬頃から同店を再開したが、その後、固定客が離れ、仕事がきつく感じられたため閉店したこと、原告は、平成四年分の事業所得につき、売上が金五三一万八三六〇円で、仕入原価、原価償却費、地代家賃、従業員給料等を控除すると、所得金額が金九三万〇四五九円の赤字であるとして確定申告をしたことが認められる。

(二)  右認定によれば、原告の本件事故当時の所得は明らかではないが、確定申告の記載は必ずしも正確ではなく、原告の飲食店の収入が相当あつたことがうかがわれることなどから、原告は、賃金センサス平成五年度第一巻第一表・企業規模計・男子労働者・学歴計・二五歳ないし二九歳の表による平均年収額金四二〇万〇三〇〇円(一日あたり金一万一五〇七円、円未満切捨)を得ていたとみるのが相当である。

そして、原告の前記受傷内容、程度、治療経過等から、原告主張の休業日数二〇〇日(平成五年一〇月二八日から平成六年五月一五日まで)は相当である。

そうすると、原告の休業損害は、原告主張のとおり金二三〇万一四〇〇円となる。

7  慰謝料 金一五〇万円

前記認定の原告の受傷内容、治療経過、入通院期間等諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対して慰謝料は金一五〇万円が相当である。

五  抗弁(過失相殺)

1  成立に争いのない甲第三ないし七号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、東西方向に通じる片側二車線の直線道路の東行車線上であるが、その車道の幅員は、北側が三・五メートル、南側が三・〇メートルであり、その制限速度は、時速五〇キロメートルである。

(二)  被告田中は、本件事故直前、加害車を運転して右東行車線上の左側車線を東進し、右転回するに当たり、右後方約五八・八メートルを進行して来る被害車を認めたが、自車が先に転回できると考え、時速約一〇キロメートルの速度で転回したところ、被害車の左前側部と加害車の右後部ヘエンダー付近とが衝突した。

(三)  原告は、本件事故直前、加害車を運転して右東行車線上の右側車線を時速約七〇キロメートルの速度で東進し、進路前方左側でお客を乗せていたタクシー(加害車)を認めたが、そのまま東進を続け、同車を追い抜く直前で同車が右転回したため、同車と被害車とが衝突した。

2  右認定によれば、原告は、加害車を衝突する直前まで気がつかなかつたのであるから、前方左右の確認が不十分であつたことが明らかであるうえ、制限速度を時速約二〇キロメートル超過して被害車を運転したことも本件事故の一因をなしているから、相当程度の過失はあるというべきである。

他方、被告田中は、後方から進行して来ていた被害車の確認を十分にしないで右転回したため、直進車である被害車の進行を妨げ、同車と衝突したものであるから、その過失は誠に大きいといわざるをえない。

その他諸般の事情を考慮し、原告と被告田中の過失を対比すると、その過失割合は、原告が二五パーセント、被告田中が七五パーセントとみるのが相当である。

そこで、原告の前記車輛損害は除いた損害合計額金四一四万二六三二円を右割合で過失相殺すると、原告がその後に請求できる金額は金三一〇万六九七四円となる。

六  損害の填補

原告が本件事故に関し自賠責保険から金一二〇万円の損害の填補を受けたことは、原告の自認するところであるから、同金額を控除すると、原告がその後に請求できる金額は金一九〇万六九七四円となる(なお、物損の填補分の金一三五万円は原告の請求権が認められないことは前記のとおりであるから、損益相殺の対象とすべきでない。)。

七  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払いを約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額に鑑みると、原告が本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は金一九万円程度と認めるのが相当である。

八  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、連帯して損害金二〇九万六九七四円及び内金一九〇万六九七四円につき平成五年一〇月二七日から、内金一九万円につき本件判決言渡の日の翌日からそれぞれ支払済みまで年五分の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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